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クニマスのなぜなぜ?

≫表ダイバーは200〜201ページの「エコ・リポート」です。

工藤孝浩(神奈川県水産技術センター)

私は次のように考えています。
ヒメマスとクニマスの生殖隔離は、おそらくもともと不完全なものだったのでしょう。それでも田沢湖で一応交雑しなかったのは(すでに田沢湖で雑種が生じていた可能性も示唆されていますが)、産卵期と産卵場がともに異なっていたからだと考えています。

ヒメマスは秋に湖岸浅所で産卵し、田沢湖のクニマスは2月を中心に幅広い産卵期をもち、水深15〜225mで産卵していたとされます。秋田県水産試験場は、12〜4月、おもには1〜3月に獲ったクニマスを用いて人工授精をしていました。秋は両種の産卵期が重なりますが、圧倒的な産卵場の水深の違いによって隔離が成立していたのでしょう。

いっぽう、ヒメマスが生息する環境条件としては、西湖よりも本栖湖のほうがよさそうに思えます。そして、毎年膨大な数が放流されているヒメマスは、西湖ではほとんど再生産しておらず、本栖湖では一部が再生産している可能性がありそうなのです。山梨県水産技術センターは、10〜1月に西湖の水深30m以深から採取されたクニマスで人工授精に成功しています。10月はヒメマスの産卵期に重なりますし、産卵場の水深の違いは、田沢湖に比べればごくわずか。こんな危うい状況で70年間以上も生殖隔離が成立していたことは奇跡的と言わざるを得ません。西湖でヒメマスが再生産していないと仮定しなければ、嵐のようなヒメマスの放流にさらされた中での長期間にわたる生殖隔離の合理的な説明がつかない、と私は考えます。そして、過去に本栖湖で起こってしまったであろう交雑の過程は、西湖のクニマスを保全するうえで有力な知見となります。今後の研究によってこの過程が明らかにされることを期待します。

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